出血傾向の症例(NEJM "A Bruising Loss")

NEJMにとても教育的な症例が提示されていたので、国試風にアレンジしてみました。
血液を勉強した方は、是非解いてみてください。
 
元の論文はこちら
 
 
 
では、見てみましょう。


症例

32歳女性
上肢、下肢および背部に、3週間続く皮下出血を主訴に来院した
 
【現病歴】来院3週間前より、上肢、下肢および背部の皮下出血に気づいた。原因に心当たりはない。皮下出血は数日間の咽喉痛、鼻風邪、倦怠感の後すぐに発症したが、これらの感冒症状は自然軽快した。発症1週間前に右肘および両膝の痛みを自覚した。易出血性と皮下出血の既往はない。
彼女は倦怠感を訴えているが発熱、盗汗、最近の体重減少、直腸および膣からの出血、口腔および眼球の乾燥、皮疹、筋痛を認めない。
 
【既往歴】来院8週間前に、妊娠38週で経膣分娩で男児を産んだ。妊娠は初回であり、合併症はなかった。
【内服歴】マルチビタミン剤のみ
【生活歴】夫と息子3人暮らし。家庭内虐待の既往なし。
 喫煙:なし
 飲酒:機会飲酒
 違法薬物の使用:なし
【家族歴】父方の親戚に若年発症の乳がん既往が2名。出血や自己免疫疾患の家族歴なし
 
 
問1:診断する上で、検索する意義が最も高いものを一つ選べ
a 口腔粘膜出血
b 眼瞼結膜蒼白
c 血圧
d 脱毛
e swan neck変形
 
 

■身体所見
BT 37.2℃ HR 72/min BP 120/82 mmHg RR 14 SpO2 98% (R.A.)
 
呼吸促迫なし
眼球に黄疸なし、結膜貧血なし
鼻出血なし
咽頭・口蓋の点状出血や紫斑無し、歯肉出血なし
項部硬直無し
甲状腺腫大なし
肺音清
心音整、雑音・過剰心音無し
腹部圧痛なし、肝脾腫なし
四肢の冷感、浮腫無し
腓腹部、下腿前面、上下肢に広範囲の出血斑を認める。腰背部に集簇した出血斑を認める。右肘は触ると温かく、かすかに腫脹している。左肘は可動域制限を認めないが、右肘は痛みのため約100度しか屈曲しない。両膝はわずかに温かく、同様の可動域制限を認める。末梢動脈の拍動を触知する。感覚神経の障害を認めない。
 
 
問2:この患者の検査所見として最も予想されるものを2つ選べ。
a 血小板減少
b 血小板機能不全
c PT延長
d APTT延長
e 貧血
 

■血液検査
項目
基準値
LD
180
135~214
9900/mm3
 
 好中球
75.8%
 
 リンパ球
19%
 
 単球
3%
 
2%
 
Ht
37.6%
 
Plt
35.6万/mm3
 
PT-INR
1
 
APTT
85秒
<36
534mg/dL
>300
末梢血塗抹標本では、血小板および赤血球の形状は正常であり、破砕赤血球は認めない。
 
 
 
問3:最も可能性の高い診断は以下のうちどれか
a HELLP症候群(産褥期発症)
b 免疫性血小板減少性紫斑病
c 後天性血友病
d von Willwbrand病
e 血栓性血小板減少性紫斑病
 
 

■第IX因子、第XI因子、第XII因子のレベルはすべて正常であった。von Willebrand因子活性およびリストセチン補因子活性レベルはいずれも正常であった。第VIII因子活性は検出下限値以下(1%未満;正常範囲、50〜150)であった。
 
応用問題
問4:診断確定のために必要な検査を一つ挙げよ(記述)
 

解説

皮下出血を主訴にやってきた患者さんです。
鑑別のポイントはずばり、出血部位です。
  1. 点状出血、あざ、歯肉出血、鼻出血血小板障害を示唆(一次止血障害)
  2. 深部(皮下、筋肉、関節)→凝固因子障害を示唆(二次止血障害)
 
■回答
問1:診断する上で、検索する意義が最も高いものを一つ選べ
a 口腔粘膜出血 ○
これがあった場合、血小板障害を示唆します。
b 眼瞼結膜蒼白 ×
貧血を示唆する所見です。システムレビューで取りますが、診断的意義はaに劣ります。
c 血圧 ×
高かった場合、産褥期のHELLPを疑いますが、凝固障害の直接の原因診断にはつながりません。
d 脱毛 ×
凝固障害の直接の原因診断にはつながりません。
e swan neck変形 ×
関節リウマチで認められる所見です。本症例では関節痛を認めるため、鑑別には挙がりますが、凝固障害の直接の原因診断にはつながりません。
 
問2:この患者の検査所見として最も予想されるものを2つ選べ。
a 血小板減少 ×
身体所見において粘膜出血を認めないことから、否定的です。
b 血小板機能不全 ×
aに同じ
c PT延長 ○
二次止血障害の原因として妥当です
d APTT延長 ○
cに同じ
e 貧血 ×
眼瞼結膜は正常であり、病歴も特に貧血を示唆するものはありません。
 
問3:最も可能性の高い診断は以下のうちどれか
a HELLP症候群(産褥期発症) ×
血圧正常、LDH正常、血小板数正常から否定的です。
b 免疫性血小板減少性紫斑病 ×
二次止血障害障害の原因とはならないため否定的です。
c 後天性血友病 ○
高齢男女または20~30代女性に好発します。第8因子に対する自己抗体が原因で発症する疾患です。
家族歴は認められず、妊娠等の基礎疾患との関連が報告されています。
二次止血障害であり、これまで同様の病歴がないことから最も考えられます。
d von Willwbrand病
一次止血障害と二次止血障害の両方を起こしうる疾患です。鑑別上位に挙がりますが、先天性であり通常幼児期に発症することから否定的です。
e 血栓性血小板減少性紫斑病
ADAMTS13の活性低下により、血小板血栓が多発する疾患です。①血小板減少による出血傾向②最小血管障害性溶血性貧血③腎機能障害④動揺性の精神神経症状⑤発熱、の五徴が典型的です。二次止血障害の原因とはならないこと、末梢血では破砕赤血球を認めていないこと、および他の症状がないことからも否定的です。
 
問4:診断確定のために必要な検査を一つ挙げよ(記述)
正解はクロスミキシング試験です。
本症例では第8因子が低下しており、他が正常でした。鑑別は以下の2つの疾患となります。
  1. 先天性の血友病(凝固因子欠損)
  2. 後天性の血友病(インヒビターによる自己免疫機序)
クロスミキシング試験では、正常血漿と患者血漿を様々な比率で混合し、APTTを測定することで、これらの病態を鑑別することができます。
正常血漿の比率を高くしてもAPTTが延長したまま→インヒビターの存在を示唆
正常血症の比率を高くするとAPTTが正常化→欠損を示唆(凝固因子を少しでも補えば正常化)。
 
病気が見えるvol.5 血液に分かりやすいグラフが掲載されています。
良ければ参考にしてください。
 

参考:出血傾向の鑑別

以下参考資料です。
 
参考1:二次止血障害
PT-INRおよびAPTTを用いて鑑別します。

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参考2:血小板障害
血小板障害の原因としては以下のような病態があります
  1. 血小板数の異常
    1. 喪失、消費亢進
      1. 免疫性
        1. ITP
        2. 薬剤性
      2. 消費性
        1. TTP
        2. DIC
    2. 産生障害
    3. 脾臓による捕捉(脾腫)
  2. 血小板機能の異常
    1. 薬剤性
    2. 尿毒症
    3. 骨髄増殖性疾患
      1. 真性赤血球増加症
      2. 本態性血小板血症
    4. 先天性
      1. VWD
      2. 血小板無力症
      3. Bernard-Soulier症候群
 

 

まとめ

全問正解出来たでしょうか?
僕が元論文を読んでいた時は、検査結果が出揃うまで何のことやら分からなかったです笑
また、冒頭の感冒症状については文献内では触れられていませんでした。きっかけの一つという程度なのでしょうか。
この方はその後プレドニンと凝固因子補充で治療開始しましたが再発し、リツキシマブを投与されています。
 
出血傾向の整理に少しでもお役に立てたら幸いです。
ポイントは、出血部位でしたね。
  1. 点状出血、あざ、歯肉出血、鼻出血→血小板障害を示唆(一次止血障害)
  2. 深部(皮下、筋肉、関節)→凝固因子障害を示唆(二次止血障害)
 
設問と回答は僕が勝手に作ったものです。不備があるかと思います。twitterのDMかコメント欄でぜひご指摘ください。
 
 
ではまた