眼振のまとめ

眼振について、国試の範囲でまとめました。
 
かつてある有名な神経内科医は弟子に対して次のように忠告したそうです。
眼振について記載しても何ら意味はない」
(R. Wartenberg: Diagnostic Tests in Neurology: A Selection for Office Use. 1953 Year Book Publishers, Inc. Chicago, IL)
 
それくらい臨床的には解釈が煮え切らない所見なのかもしれません。とはいえ国試の症例文には普通に出てくるので、割り切って覚えるべきことを覚えようと思います。
 
用語の定義はハイライトに、試験の重要事項は太字にしてあります。
 

眼振の定義

眼振とは

不随意で周期的な往復眼球運動のこと。固視を妨げる。
英語ではnystagmusです。108C12で必修の英語問題として出題されているので、覚えておくと良さそうです。
 
固視:見ようとしている物体(固視目標)の像を網膜の中心(中心窩)でとらえること
 
眼振はそもそも、眼球振盪の略だそうです。
振盪:揺り動かすこと。または、揺れ動くこと
 

■方向の定義

①視線が徐々にずれていく
②それを急速に修正する
この②の急速な修正運動の方向を、眼振の方向と定義します。
 
生理的眼振は、例えば電車に乗っているときに外を眺めているときにも起こります。
 

分類

■障害部位による分類

眼振は、①三半規管、②前庭、③小脳のいずれかが障害された際に起こります。
  1. 三半規管→方向交代性眼振
  2. 前庭→水平定方向性眼振
  3. 小脳→注視方向交代性眼振、水平性衝動性
 
方向交代性眼振注視の方向により眼振の向きが異なる。左向き注視で左に眼振、右向き注視で右に眼振
 

眼振の種類による分類

ここが一番ややこしいところですが、国試で必要になるのはおそらく①注視眼振②頭位眼振③頭位変換眼振④温度眼振の4つです。
そして重要なのはこれら4つが、眼振の誘発の仕方による分類であるという点です。これを踏まえて個々の眼振を確認すると分かりやすいと思います。
 
注視眼振:一定の方向を注視してもらい眼振を見る
  1. 方向交代性→小脳、脳幹部障害(=中枢性)
    ※中枢性の場合はこれ以外にも、上下方向や回旋性など様々な性状の眼振が出現しうる。
  2. 定方向性→片側の前庭機能低下(=末梢性)
 
★めまいにも末梢性と中枢性がありますが、末梢性=前庭×、中枢性=小脳、脳幹×のことを指します。
 
頭位眼振頭位を一定の位置にした時眼振を見る
一定の位置……(懸垂or仰臥位) × (右or正面or左)の計6通

 
頭位変換眼振頭位を変えた時眼振を見る
座位→懸垂頭位、あるいはその逆。
半規管内の耳石が移動することによって起こる→頭位変換から眼振までにタイムラグあり(=短い潜時)
耳石が特定の位置に落ち着くと収まる→数秒~数十秒で消失
 
国試的には頭位眼振、頭位変換眼振(+)→BPPVで良さそう。
 
★過去に眼振検査表の見方が出題されています。1つ目の図は、上の頭位眼振検査と対応しています。この場合は、左耳下の頭位で回旋性眼振
2つ目の図は、上が懸垂頭位、下が座位にした際の眼振を表しています。→頭位変換時の方向交代性回旋性眼振

 
 
 
 
④温度眼振(カロリックテスト)
カロリックとはかつて熱の正体だと考えられていた物質のことで、(適当に調べた範囲ではおそらく)熱量を指すカロリーの語源です。熱なので、温度変化による眼振をみます。
○やり方と意義
  1. 外耳道に温水と冷水を注入する
  2. @仰臥位。温水→注入側に向く眼振。冷水→逆向き。暖かい人は周りに人が集まるので、温水では注入側を向く、と覚えています。
  3. @座位。仰臥位と逆。
  4. これらの生理的な反応が減弱している状態を半規管麻痺(CP:canal paresis)と呼び、前庭神経障害を示唆する。
脳死判定の基準の一つである、前庭反射にも応用されています。
 
 

■方向による分類

国試では、方向による分類も重要です。垂直なら中枢性を疑います。自発性の水平方向なら前庭神経炎を疑います。他、回旋眼振というものもあります。
 
純回旋眼振:眼球が軸回転する🔄
  1. 自発性→中枢性
  2. 頭位変換時→BPPV
 

眼振をきたす疾患

国試の出題範囲で眼振をきたす可能性のある疾患を列挙しました。
  1. 脳幹× or 小脳×→脳卒中(Wallenberg症候群など)、MLF症候群(橋×)、脳炎多発性硬化症、髄芽腫、血管芽腫(VHLなど)、上衣腫、脳卒中
  2. 前庭×→Ramsay Hunt sx. 、Bell麻痺、Wernicke脳症(妊娠悪阻など)、聴神経鞘腫、真珠腫性中耳炎、前庭神経炎、Menetrie病、外傷、アミノグリコシド突発性難聴
  3. 三半規管×→BPPV
 

特殊な眼振

Bruns眼振(方向交代性眼振
神経鞘腫で見られます。
・患側を注視→低頻度かつ大きな振幅の眼振
・健側を注視→高頻度かつ小さな振幅の眼振

youtu.be

ペンを持って注視してもらっているのが分かります。一つ目が患側(左)方向、二つ目が健側(右)方向です。
 
瘻孔現象:外耳道を加圧、減圧するとめまいが誘発される
瘻孔症状、圧迫眼振とも。
外リンパ瘻と真珠腫性中耳炎で陽性
 

まとめ

垂直方向の眼振→中枢性
方向交代性眼振→中枢性
頭位眼振、頭位変換眼振→BPPV
Bruns眼振→聴神経鞘
瘻孔現象→外リンパ瘻、真珠腫性中耳炎
 
 
参考
レビューブックマイナー 2019-2020
マクギーのフィジカル診断学 原著第4版